会長挨拶
このたび京都府病院協会会長に就任しました水野敏樹です。本協会の起源は昭和26年4月に京都病院長会として発足し、その後昭和39年に京都私立病院協会が分離独立した後、昭和41年6月に京都府病院協会と名称を改め平成26年7月には一般社団法人京都府病院協会として法人格を取得し新たなスタートを切りました。そのような伝統ある本協会の発展に微力ながら尽くしたいと存じます。新型コロナ感染が終息し、いよいよと考えていた医療機関も多かったと思いますが、患者数はコロナ前の状況にはなかなか戻らず、一方病院では働き方改革への対応に追われ、ようやく一区切りがついたかと思えば人手不足、そして気がつけば、どの病院も赤字経営となり、現在大変厳しい状況に追い込まれています。
これまでは、2025年の高齢化対策ということで、医療者の数は増えてはきていたはずですが、どの病院も医師・看護師・薬剤師が不足し、わかってはいたものの若年人口減少による人手不足が、医療そして介護の分野で顕在化しつつあります。
新型コロナ感染時には入院施設が足りない、医療者が足りないと医療資源には限りがあることが認識されたものの、今は医療・介護にかかる費用が高騰していくことから、政治的打開策として病床数削減が議論されることには違和感があります。高齢者の増加に伴う医療費用削減が強く求められていますが、医療費の削減は医療環境をさらに悪化させる危険を孕みます。また研修医の直美問題、派遣会社に頼らなければ看護師さんが集まらない、病院薬剤師不足といった問題は、病院勤務がハード過ぎる結果、医療スタッフが定着しない医療業界の構造的な問題の根深さを露呈しています。
個人的な経験になりますが、20年前にイギリスへ留学していた時にNational Health Service(NHS)が崩壊の危機に面していたことを思い出します。医療がすべて無料で行われていたイギリスの医療制度は素晴らしいものですが、病院の機材は古く、使える検査機器は限られ、病院への受診になると長期間の待ち時間が当たり前、急がない手術になれば半年待ち、白内障は1〜2年待ち、休日に救急で受診しても軽症としてトリアージされた患者さんが数時間待つのは当たり前でした。このため、お金があればNHSには頼らず、私立の病院へ行くという社会保障と資本主義社会の矛盾が呈されていました。24時間どこでもフリーアクセスで受診できる日本の医療制度の良さは海外に出てみなければなかなか理解されません。日本の医療機関は、便利ですぐに診てもらえ、安くて高度な医療に対応できていたのですが、現在病院で勤務する医療者は不足し、限られた医療費の中では以前と同じ対応が難しくなりつつあることを一般の皆さんに御理解いただく必要があります。
高齢化が一層進む中で2040年に向けての地域医療計画が検討されており、本協会としても地に足を着けた対応が必要だと考えます。会員の皆様の意見を幅広くお聞きするとともに、厳しい医療情勢を広く一般の方にも知っていただき、これからの医療を一緒に考えていきたいと存じます。
会長 水野 敏樹